相続放棄は、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述して行います(民法915条・938条)。この3か月を熟慮期間といい、期間内に手続きをしないと、借金も含めて相続を単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。
申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、費用は申述人1人につき収入印紙800円と、裁判所ごとに決められた郵便切手です。放棄が受理されると初めから相続人でなかったものとみなされ(民法939条)、相続の権利は次の順位の人に移ります。
3か月の期限の数え方
熟慮期間は死亡日ではなく、相続人が「自分が相続人になった」と知った日から始まります。期間の計算は民法140条により初日を数えず翌日から進めます。母が2026年11月20日に亡くなり、長男がその日に知った場合、期限は2027年2月20日です。
3か月の最終日が家庭裁判所の閉まっている土日祝日になる場合、その翌日まで延びるかについて裁判所の案内には書かれていません(民法142条の解釈では翌日満了とされます)。最終日が近いときは申述先の家庭裁判所に確かめてください。
財産の調査に時間がかかるときは、期限内に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てられます(民法915条1項ただし書)。伸長が認められるかどうか、どれだけ延びるかは家庭裁判所が判断します。
必要書類と費用
共通して出すものは、相続放棄の申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述する人の戸籍謄本です。申述人が子や配偶者であれば、被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本も添えます。書式は裁判所の相続の放棄の申述のページに載っています。
費用の内訳は、申述書に貼る収入印紙800円と、裁判所から書類を送るための郵便切手です。切手は数百円程度で、組み合わせは裁判所ごとに違います。戸籍の取り寄せ費用は別にかかり、集め方は戸籍の集め方で説明しています。
申述から受理までの流れ
申述書を出すと、家庭裁判所から照会書が届くことがあります。照会書には、死亡を知った日や財産を処分していないかなどの質問があり、回答して返送します。問題がなければ相続放棄申述受理通知書が送られてきます。
債権者や法務局に放棄したことを示すときは、家庭裁判所に申請して相続放棄申述受理証明書を発行してもらいます。受理通知書と受理証明書は別の書類で、提出先によって求められるものが違います。
放棄すると相続人が入れ替わる
子が全員放棄すると、相続の権利は第2順位の父母や祖父母に移ります。直系尊属もいないか全員放棄すると、第3順位の兄弟姉妹が相続人になります。配偶者は順位に関係なく相続人なので、子が放棄すると配偶者と組む相手が変わります。
例えば父に借金があり、母と長男・長女が放棄すると、父の両親が亡くなっていれば父の兄弟姉妹に権利が回ります。兄弟姉妹の側の手続きと必要な戸籍は兄弟姉妹の相続放棄にまとめています。
放棄前後の財産の扱い
相続財産を処分すると単純承認とみなされ、その後は放棄できなくなります(民法921条1号)。預金を引き出して自分のために使う、不動産を売る、価値のある遺品を形見分けとして配るといった行為が問題になりやすい例です。
2023年4月1日施行の民法940条により、放棄した人が財産を管理する義務は、放棄の時に現に占有している財産に限られました。その財産は、次に相続人になった人や相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存します。
よくある質問
- 相続放棄の撤回はできますか。
- 受理された放棄は、熟慮期間内であっても撤回できません(民法919条1項)。詐欺や強迫を受けて放棄した場合などは取消しの余地がありますが、これも家庭裁判所への申述が必要です。
- 生命保険金を受け取っても相続放棄できますか。
- 受取人が指定された生命保険金は受取人自身の財産とされ、受け取っても放棄できるのが原則です。ただし受取人が被相続人本人になっている保険金は相続財産に入るため、扱いが変わります。
- 未成年の子の相続放棄は誰が手続きしますか。
- 親権者が法定代理人として申述します。ただし親自身は相続し、子だけを放棄させるような場合は利益が相反するため、家庭裁判所で特別代理人を選んでもらいます(民法826条)。
出典
最終確認日 2026年10月15日。法律の条文は e-Gov 法令検索、手続きは各機関のページで確かめています。