そろばんノート

相続の手続きと期限

生前贈与と相続税の持ち戻し

亡くなる前の贈与が相続税の計算に戻される範囲を整理します。

相続や遺贈で財産を取得した人が、亡くなった人から相続開始前の一定期間に暦年課税で受けた贈与は、相続税の課税価格に加えて計算します(相続税法19条)。この期間は従来3年でしたが、2024年1月1日以後の贈与から7年に延びました。加算の対象になる期間は、相続開始が2026年12月31日までなら相続開始前3年以内、2027年1月1日から2030年12月31日までなら2024年1月1日から相続開始の日まで、2031年1月1日以後なら相続開始前7年以内です。延長された期間の贈与から100万円を差し引く扱いは、2027年1月2日以後の相続から使われます(国税庁 No.4161)。

延長された部分(相続開始前3年より前の4年間)に受けた贈与は、その4年間の合計から100万円を差し引いた額だけを加算します。直前3年以内の贈与は全額が加算されます。年110万円の基礎控除の範囲内で贈与税がかからなかった贈与も、加算の対象から外れるわけではありません(国税庁 No.4161)。

加算の対象になる人とならない人

加算されるのは、相続または遺贈で何らかの財産を取得した人が受けた贈与です。相続人である子が毎年贈与を受け、相続でも預金を受け継いだのであれば、その子への贈与が持ち戻しの対象になります。

孫や子の配偶者のように、相続人でなく遺言でも財産をもらわない人への贈与は、原則として加算されません。ただし孫が遺言で財産を受け取る場合や、死亡保険金の受取人として保険金を受け取る場合は、遺贈などで財産を取得した人に当たり、加算の対象になりえます。

相続を放棄した子は相続で財産を取得しないため、原則は加算の対象外です。放棄していても死亡保険金を受け取ると、みなし遺贈で取得した人として扱われる点は孫と同じです。相続人の範囲は相続人は誰になるかで確認できます。

年110万円を続けた場合に加算される額(7年の制度の例)

年110万円を続けた年数贈与の合計相続財産に加算加算されない
1年110万円110万円0円
2年220万円220万円0円
3年330万円330万円0円
4年440万円340万円100万円
5年550万円450万円100万円
6年660万円560万円100万円
7年770万円670万円100万円
8年880万円670万円210万円
9年990万円670万円320万円
10年1,100万円670万円430万円

計算例:2031年に父が亡くなった場合

父が2031年1月20日に亡くなり、長男が2024年から2030年まで毎年12月10日に110万円ずつ、合計7回で770万円の贈与を受けていたとします。長男は相続でも父の預金を取得しました。加算期間は7年なので、2024年1月20日以後の贈与がすべて範囲に入ります。

まず直前3年以内(2028年1月20日以後)の贈与は、2028年・2029年・2030年の3回で330万円です。この部分は全額を加算します。残る2024年から2027年までの4回は延長された期間の贈与で、合計440万円から100万円を引いた340万円を加算します。

加算額は330万円と340万円を足した670万円です。770万円の全額ではなく、100万円少ない額が長男の課税価格に加わります。毎年の贈与が110万円以内で贈与税を払っていないため、相続税から差し引く贈与税額はありません。相続税の額は相続税シミュレーターで遺産総額に加算額を含めて計算できます。

加算した贈与に贈与税を払っていた場合

年110万円を超える贈与を受けて贈与税を納めていたときは、その贈与を加算したうえで、払った贈与税を相続税額から差し引きます。これを贈与税額控除といい、同じ財産に贈与税と相続税が二重にかかることを調整する仕組みです。

差し引けるのは算出された相続税額までで、贈与税の方が多くても差額は戻りません。加算した贈与の内訳は相続税の申告書第14表に記入し、贈与税の申告書の控えなどで金額を確かめます。

相続時精算課税を選んだ贈与との違い

相続時精算課税を選んだ贈与者からの贈与は、期間に関係なく、贈与したときの価額で相続財産に加算します(国税庁 No.4103)。2024年1月1日以後は、精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられ、この範囲の贈与は申告が要らず、相続のときにも加算されません。

暦年課税の110万円は加算期間内なら持ち戻されるのに対し、精算課税の110万円は持ち戻されないという違いがあります。一度精算課税を選ぶと、その贈与者からの贈与は暦年課税に戻せないため、選ぶかどうかは贈与者ごとに一度だけ判断する形になります。

年110万円の贈与で見られる点

子名義の通帳に親が入金し、通帳や印鑑、キャッシュカードを親が持ち続けていると、贈与ではなく親の財産(名義預金)として相続財産に含めて判断されやすくなります。受け取った人が自分で管理していることが、贈与の実態を示す材料になります。

贈与は当事者の合意で成り立つ契約で(民法549条)、一般的には贈与契約書を毎回作り、銀行振込で記録を残す方法がとられています。最初に「10年間毎年110万円を渡す」と約束すると、全体を一つの定期金の贈与と見られるおそれがあるため、年ごとに契約を分けて書面にする例が多く見られます。

よくある質問

孫に毎年贈与していた分も相続財産に戻されますか。
孫が相続人でなく、遺言で財産を受け取らず、死亡保険金の受取人にもなっていなければ、加算されません。孫が代襲相続人になっている場合や遺贈を受ける場合は、子と同じように加算期間内の贈与が持ち戻されます。
2026年に亡くなった場合は何年分が加算されますか。
2026年中の相続では、加算期間は従来どおり相続開始前3年です。加算期間が3年を超えて延び始めるのは2027年1月1日以後の相続からで、2024年1月1日以後の贈与だけが延長部分に入ります。
延長分の100万円は相続人ごとに引けますか。
100万円は、延長された4年間に受けた贈与の合計から、贈与を受けた人ごとに差し引きます。長男と長女がそれぞれ延長期間内に贈与を受けていれば、2人ともそれぞれの合計から100万円を引いて加算額を出します。

このページは、法律と公的機関の案内にもとづく一般的な説明と計算の目安です。あなたの場合にどうするかの判断は、司法書士・税理士・弁護士、または法務局・税務署・家庭裁判所の相談窓口にご確認ください(司法書士法、税理士法、弁護士法72条)。

出典

最終確認日 2026年10月15日。法律の条文は e-Gov 法令検索、手続きは各機関のページで確かめています。